男性による在宅介護

在宅介護の工夫など

ビデオ会議システムと介護

20200715                                     ビデオ会議システムと介護

 

1 コロナ禍における介護

 新型コロナウィルスの感染拡大による外出自粛要請で、家族会による各種催しが中止され、ディサービス等の施設利用も制限されています。本人や家族が感染者、濃厚接触者となってしまう不安が募る中、家の中にいるしかない介護生活で、本人や家族のストレスが溜まる日々が続いています。

また、施設入居者の家族においても直接スキンシップできる面会が制限されるようになり、数か月も本人の表情を確認することすらできないなど、家族の心配が大きくなってきています。

 今こそ同じ苦しみを分かち合える介護仲間との交流や情報交換が強く求められます。

 そこで、認知症家族会でビデオ会議ソフトZoomを使った家族交流会を4月に立ち上げ、家族同士のおしゃべり、情報交換ができる機会を設けました。

 

2 ビデオ会議システムを活用した家族交流会

 家族会ではこれまでに40回以上の家族交流会を開き、約400人の参加がありました。

会に参加してモニター画面に顔が映し出されると、自然と皆がモニターに手を振り笑顔で向かい入れてくれます。モニター画面ではありますが久しぶりの介護仲間の賑やかな顔を見て、一緒に参加されたご本人も笑顔になられたこともありました。そこで時折、参加者の了解を得てモニター画像で記念写真を撮り参加者にお配りしました。

 ビデオ会議システムの良い所は何と言っても気楽に参加できることです。時には本人の食事を介助しながら参加したり、会の途中であっても画面を中断してトイレに連れて行くことができます。また、これまで定例の家族会に参加できなかった遠方在住の方や、外出が難しい家族も参加できるようになりました。さらに、在宅介護者と施設入居者家族、介護中の家族と看取った家族などグループ分けることによって、気遣いの少ない内容の濃い意見交換が可能となります。

 在宅介護をされているご家族からは、「とにかく感染しないように家で巣ごもりしている。」「マスクを嫌がるので外に出にくい。」「濃厚接触者になったり感染したら即入院させられてしまうが、環境の急激な変化に認知症が進行してしまうので一緒の部屋に入院させてほしい。」「在宅でも感染による治療が受けられる訪問治療を充実してほしい。」といった切実な意見がありました。

 施設入所されているご家族からは、「3か月以上面会できなかったが、ようやく予約で週1回10分間、ガラス越しの面会ができるようになった。」「ガラス越しだと、せっかく行っても私が分からないかも知れない。」「いつも部屋でマッサージしてあげていたのだが、面会した様子では拘縮が進んでしまっているようだ。」といった切実な意見がありました。

 

 3 家族会や介護での活用

 これまで家族会に参加できなかった遠方在住者や、外出困難者がビデオ会議システムでの家族交流会を体験すると、集会施設で行う家族会が再開されれば、そこにビデオ会議システムでの参加が求められるようになります。6/24に飯田橋のボランティアセンターで開催された家族会で、ご自宅からビデオ会議システムで参加されたご本人とご家族のお二人と会場参加者とがノートパソコンを介して繋がることができました。

 また、介護施設での体操やお茶の時間等の日常活動の様子を介護施設からビデオ会議システムを活用して発信すれば、事前に登録した家族が自宅から参加することができます。改まった“面会“という形式ではなく、ご家族も自宅から一緒に体操やお茶の時間等に参加することができます。

 さらに、ビデオ会議システムを活用して在宅診療や認知症初期集中支援活動を充実することが可能となります。移動や会場確保などの手間が不要となり効率的な診療、活動が行えるだけでなく、必要に応じて気軽に関係する多職種の参加を呼び掛けることができることで多面的な意見交換を行うことができます。そのことで、医療と介護と家族が連携した総合的な対応、認知症の早期発見、早期対応が可能となります。

 

4 ビデオ会議システムの課題

 ビデオ会議システムを家族会や介護で活用するためには、介護家庭、介護施設、公共集会施設、訪問診療や認知症初期集中支援チームにビデオ会議が行える環境整備が求められます。ビデオ会議ソフト内蔵のパソコンやタブレット、必要に応じてWeb会議用カメラ、マイク、大型モニター等の備品が求められます。また、パソコンやタブレットの操作を支援するパソコンボランティアも必要になると思います。

 ビデオ会議システムなどのデジタルを介した繋がりはあくまで一つの手段でしかなく、何と言っても温もりを感じられる人と向かい合った繋がりに勝るものはありません。ただ、そのことができにくい環境に置かれてしまった時に、モニター画面による繋がりであっても心の支えになる有効な手段になりえると思います。

 コロナ禍の期間だけでなくても、外出の機会が少なくなってしまう認知症の家族にとって、ビデオ会議システムの整備は介護生活を強力に支援する不可欠なツールになると思います。

家族旅行会の魅力

昨年の6月に初めて参加した家族会の旅行記録です。

 

 

20190624                      家族旅行会の魅力

 

 初めて参加した家族旅行会について、男性参加者としてのご報告と、感想をお伝えしたいと思います。

 6月1日土曜日の12時に東京駅丸の内の行幸通りに集合でした。何かと手間のかかる介護家族にとってゆっくりとした集合時間、国家の威信をかけてバリアフリーが徹底されている分かり易い集合場所は、とても適切だと思いました。

 参加者は21名で、ご本人の男性2名と介護家族2名、他の介護家族3・4名で、残り10名以上がOG、OB、サポーターでした。また、現地の伊豆大仁温泉から一組のご夫婦が参加されました。

 27人乗りのゆったりとしたサロンバスは、大きく開かれた車窓からの景色も楽しめ、外出の機会が取れなくなってきてしまうご本人や家族が、ドライブの楽しさを満喫することができます。

バスが走り出すとすぐに家族が持ち寄った多くのお菓子が車中を回り出し、副代表による事務連絡、参加者全員の自己紹介が済むとすぐにカラオケが始まりました。車中を盛り上げようとアップテンポな陽気な歌から始まり、じっくりと聴かせる歌など、ご本人や家族が日頃のストレスを発散する機会になりました。

一方、スピーカーの音量が大きく耳をふさがれてしまうご本人もいました。まだ二人で外出できた頃の妻が映画館やコンサート会場の大音響に耐え切れず、急に飛び出してしまったこと思い出しました。

ご本人も参加されている密閉された車内では、音量、香り、車酔いなどの状況をよく見極めながらの利用が望ましいと思われました。

 サービスエリアで30分程度のゆっくりとした2回のトイレ休憩を挟み、夕方4時ごろ大仁温泉ホテルに到着しました。

 3組の家族参加の方は洋室、女性は3・4人ずつに和室、世話人などの男性5人は12畳程度の和室一部屋の部屋割りとなりました。

 6時の夕食までに温泉に入ろうと、男性ご本人と世話人男性ら6人で、奥様が用意してくれた着替えの入った手提げ袋を持ち、ご本人と手をつないで大浴場に向かいました。

家族会の旅行なので、プロの介護士が同行しているわけではありません。私も妻の介護しかしたことがないのですが、ご本人と手をつないで大浴場まで来た成り行きで、入浴のお世話をすることになりました。

家庭での入浴と勝手が違うだけでなく、男性に囲まれた雰囲気に戸惑い立ち尽くしているご本人に、自分が先に裸になって声を掛けながら何とか脱衣することができました。

のんびりとした温泉の音が響き渡っている大浴場に、「段があるよ」「滑るから気を付けて」と声を掛けながら6人が一緒になってドヤドヤとなだれ込みました。

ご本人は緊張しているためか浴場の洗い椅子に座ることができず、介護用洗浄椅子に気づくまで立ったままのご本人の体を二人掛りで洗いました。

一般の利用客は状況をそれとなく察知し、遠巻きにして配慮してくれました。

大浴槽に入っても、ご本人は「危ないよ!」と言って浴槽の中で座ることができませんでしたので、淵に腰掛けてお湯を何杯も体に掛けて温泉を楽しみました。

体を良く拭いてからお揃いの浴衣に着替え、男6人が一団となって部屋に戻る時、来る時とは違った体の芯から温まった仲間意識、連帯感を感じました。

 6時から2時間、飲み物も含めたバイキング形式の夕食です。

会員は二列のテーブル席に分かれましたが、各自が好きな飲み物、食べ物をそれぞれのペースで運びながら、おしゃべりと一緒に楽しみました。すべての種類の日本酒をグラスに入れて、テーブルに一列に並べて飲み比べを楽しんでいるお酒好きもいました。

 「あっ」という間の楽しい夕食の時間が終わると、カラオケルームと男性部屋に分かれました。

男性部屋では持ち込んだお酒を飲みながらの談話に一時ドアを閉めることもありましたが、カラオケが終了するとほとんどの旅行参加者が狭い男性部屋に合流して、いやがうえにも介護の苦労話に花が咲きました。

 ここで大仁温泉から参加されたご夫妻の男性ご本人が大浴場に行きたいとのことで、副代表と二人で再度お供することになりました。

前回と同様に手をつないで浴場へ誘導しようとしましたが、ご本人から「男どうし気持ち悪い。」と断られてしまいました。確かにまだ足取りもしっかりしていて、脱衣もほとんどご自分で行える方でしたので、プライドを損なってしまったのかもしれません。ご本人のできることの芽を摘んでしまわない配慮の大切さを感じました。

ご本人が「魁傑ハリマオ―」の歌がカラオケで気に入っていたとのことで、一般入浴客がいないことを良いことに三人で「魁傑ハリマオ―」を大声で合唱しながら浴室に向かいました。アシストの二人は男性部屋でもかなりお酒が進んでいたので、ご本人の体を洗うのを手伝ってからは浴槽には入らず淵に座って、若い頃に流行った思い出の曲を歌い続けました。ご本人も口ずさみながら大浴槽の中で一人気持ち良さそうに泳いでいました。

映画のワンシーンにでも出てきそうな、男性高齢者三人が作り出した奇妙な情景でした。

 翌朝は7時から富士山を望みながら同じバイキング形式による朝食で、9時の出発前に集合写真を撮り、「めんたいパーク伊豆」に向かいました。「めんたいパーク伊豆」では工場見学、お土産の買い物、足湯等でゆっくり時間を過ごし、沼津港に向かいました。

沼津港では魚市場の前に展開する海産物のお店を散策し、お昼には魚河岸割烹で「ぬまづ丼」を食べました。食事が終わってバス出発までの時間も港周辺をそれぞれのペースや嗜好に応じてゆっくりと観光を楽しむことができました。

昨夜は手つなぎを断られた男性ご本人が、女性アシストとしっかり手をつないで楽しそうに散策していました。

 現地参加のご夫妻とは連絡先などの交換を済ましてここでお別れし、帰路につきました。バスが走り出すと心地よい振動に最初の休憩場所まで静かな午睡の時間となりました。一回目の休憩後車内は再びカラオケ会場となり、二回目の休憩を取った後は一人一人が旅行の感想を語り、夕方4時に丸の内に無事到着し解散となりました。 

 事故や特段のトラブルもなく、宿泊部屋の狭さを除けば多くの方が満足できる旅行だったと思いました。

とりわけ、日常とは異なる景色の中で、同じ悩みを体験したどうしが、ゆっくり食事をしたり、風呂に入ったり、枕を並べて同じ時間を共有することができました。定例会などでもなかなか話すことができない悩みを打ち明け、経験から得られたアドバイスを受け、連絡先などを交換することもできました。

 残念に思ったことは、こんな素晴らしい旅行会なのにご本人や介護家族の参加が少ないこと、車椅子などを利用されている重度の症状の方が参加されないことでした。

高額の利用料を払って、すべて任せられるプロの介護士が同行してくれる旅行企画などを見かけることがあります。それであれば重度の症状の方でも家族が安心して参加することができますが、家族旅行会は、交通・宿泊の実費だけで仲間と一緒に行く旅行です。会の世話人と言っても、現在も家族を介護している方や介護経験者というだけで介護のプロではなく、旅行会の段取りをして参加費を収めて参加している者です。

ただ、参加者全員がご本人や家族の困っている様子を切実に分かち合うことができ、自ら苦労を買って出るために参加している仲間の集団です。

 こういった家族旅行会の魅力や事情を良く説明して、参加したくてもなかなか参加することができない多くの会員に呼び掛ける必要があると思いました。また、参加を希望されるご家族と、ご本人の様子、具体的な対応に関する役割分担などについて事前によく打ち合わせを行い、場合によっては支援体制の拡充も検討するなど、きめの細かい準備が求められると思いました。

 家族旅行会は、参加者全員がご本人や家族と一緒になって日頃のストレスを発散し、苦労を分かち合い、助け合うことで、人間にとって一番大切な心の充足を経験させてもらえる一泊旅行です。このことが家族旅行会の最大の魅力だと思います。

介護におけるSNSの活用

 認知症の家族を介護していると、外出の機会が少なくなり社会から取り残された孤独感に襲われることがあります。ましてや新型コロナウィルス騒ぎで外出を控えなければならない昨今、認知症の介護家族にとって非常にストレスの溜まるを状況です。そんな時、家にいる時間を使ってSNSを始めてはどうでしょうか。
 SNSには、Line、Twitter、ブログなどいろいろありますが、私はFacebookを良く利用しています。Facebookは実名による登録が原則ですので、発信内容の信頼性が高い割に煩わしさが伴わない緩いつながりができます。また、発信内容を「公開」「友達の友達」「友達のみ」「特定の人のみ」「特定の人以外」「自分のみ」と、プライバシーに配慮した色々な形態で参加することができます。

 私はアルツハイマー型若年性認知症の妻を在宅介護している様子をFacebookで「友達のみ」に発信していました。そのため、私達の置かれている状況を理解している知人に限定して“友達”リクエストを送りました。ただ、同年代の友人達にはインターネットを使う事すら限られているうえにFacebookを利用している者が少なく、初めはほんの数人にしか“友達”リクエストを送ることができませんでした。
 Facebookでは「おいしいものを食べた。」とか、「きれいなところに行った。」など「プチ幸せ発信」と言われているようです。その発信を観た人が「いいね」と反応してくれることで、発信者のプ「プチ幸せ」が増幅して、また発信を繰り返すモチベーションになります。私の場合も、妻とのお出かけ、家でのお茶会、ペットや花などを写真にとって簡単なコメントと共に発信しました。
 わざわざ友人たちに訪問して頂くことや電話をかけて頂かなくても、「未だ外出ができている。」とか、「食欲は変わらない。」といった、妻の生活の様子を緩やかに伝えることができます。そのFacebookの発信に“友達”たちが「いいね」の反応をしてくれると、自分たちとその“友達”とのデジタルを介した繋がりが確認出来ることで、少なからず孤独感が癒され、社会に参加できている安心感を得られました。また、まめに妻と外出したり、食器を来客用に取り換えて撮影するように、Facebookへのモチベーションが、介護の質を向上させる結果にもつながりました。
 Facebookの最大の魅力は様々な情報から“友達”を広げてくれることです。妻の教え子、娘の友人など、インターネットに強い世代にも少しずつ“友達”になっていただき、妻の様子を伝えることができるようになりました。
「いいね」の反応はあまりないのですが、久しぶりに参加した同窓会などで「Facebook見てるよ。」とか、年賀状で「Facebookをいつも見ています。」と書いていただいたりして、Facebookを介して多くの方々にも私達を静かに見守っていただいていることに気がつくことができました。
 ここ数年でFacebookに必ず「いいね」の反応してくれた貴重な“友達”三人を、立て続けに失ってしまいました。その“友人”達には今でもFacebook上の“友達”に残ってもらっていて、彼らと交わした過去の交信を時々のぞいては、心のネットワークを繋げています。
 Facebookなどのデジタルを介した繋がりはあくまで一つの手段でしかなく、何と言っても温もりを感じられる人と向かい合った繋がりに勝るものはありません。ただ、そのことができにくい環境に置かれてしまった時に、心の支えになる有効な手段になりえると思います。

 妻を看取って在宅介護から解放されましたが、残された私の人生に妻からも「いいね」がもらえるようにFacebookを続けています。

介護生活から得られるもの

(6年前に家族報に掲載して頂いたものです。)

 五年前、家内が55歳の時にアルツハイマー型若年性認知症と診断されました。一昨年には、私も早期退職して夫婦二人世帯の自宅を中心に、色々な人の助けを借りて介護生活を送っています。
私が在職中、一人で留守番している家内の症状が進行し、自分が壊れていく悲しみと不安で、毎朝、私に家にいてほしいと必死に縋り付いてきました。そんな家内を振り払って通勤する毎朝は、私にとってもとてもつらいものでした。ヘルパーさんや知り合いに、入れ替わり立ち替わり自宅に来てもらうことで、何とか仕事を続けてきましたが、幻覚症状を含む病気の進行に伴い、さまざまな生活のトラブルが発生してきました。そのため、私が仕事を続けるための介護環境でなく、家内が安心して穏やかな生活が送れる環境作りの必要性を痛感し、早期退職を決意しました。
 家内は年の割に若く見え、化粧して出かければ認知症であることがわかりませんでした。そのため、トイレ介助が必要になってきた時期に、外出先で多機能トイレを利用する際には、自作の「介護中」のカードを首から下げる必要がありました。そんな最中、大勢の人が見守る電車の駅で、家内が興奮して大騒ぎとなってしまい、それ以来、電車での外出が出来なくなってしまいました。
 昨年の秋、家内が胃潰瘍による手術を行い、入院生活を余儀なくされました。
入院中は点滴による栄養補給が行われ、付き添いがない時は自分で点滴針を外さないようにとベッドに拘束されました。食事ができるようになるのが退院の目安ということでしたので、毎日、朝食と夕食は私が付き添って、時間をかけて食事を摂るようにしました。適切な治療と努力の甲斐あって、2か月後に何とか点滴を外し、自分で歩いて退院することが出来ました。


 毎日、朝と午後にヘルパーさんに来てもらいながらの在宅介護が再開しました。入院前はトイレで用が足せたのですが、入院してからは全て失禁するようになってしまいました。また、不快や不安なことに対してすぐに興奮し、暴れることが多くなりました。特に脱衣や、トイレ介助などに対しては、全身の力で抵抗するようになりました。
私が一人で家内の汚れたおむつを交換するときは、爪をたてたり噛みついて必死で抵抗する家内の腰をタックルしながらトイレに押し込め、空いている手で汚物処理をしてきました。年齢が若く足腰が丈夫なため、手術したとは思えないような力があります。家内にトイレから蹴り出されて後頭部を打ち付けることもありました。また、暗くなると不安になって興奮することが多くなり、せっかく作った夕食をテーブルごとひっくり返されたこともありました。
 私は腰や首筋を傷め、耳が腫れあがり、顔や首筋にひっかき傷、肩には噛みつかれた傷と、まさに満身創痍の状態がしばらく続きました。私の健康を心配したケアマネージャーさんから勧められたショートステイを試みてみましたが、興奮した家内によるトラブルが発生し、一晩で諦めました。
このような状況で、施設を中心とした介護も検討しましが、介護職員の限られた環境で元気な若年性認知症患者を受け入れてもらうには、強力な薬等による行動の抑制が欠かせないと思われ、なかなか積極的になれませんでした。


 毎日が修羅場のような介護生活がしばらく続きましたが、それでも、「魂が抜けたようにベッドで横になっている家内よりも、恥じらいの残る元気な家内の方がまし。」と自分に言い聞かせて頑張れたのも、多くの人が周りに居て支えてくれたからでした。
長い間、介護と家族会に関わってきた大先輩からは「他では得ることのできない生きる上で大事なものを介護から得られた。」と、手紙を頂きました。また、多くの介護者の経験談などを読むうち、自分の置かれた状況で、できるだけのことをしようと前向きに捉えられるようになりました。
 家内と共に生活していく自宅環境を、不快な時を極力少なく、穏やかで豊かな時が送れるように整えました。日の当たる畳の部屋をフローリングにして二人の寝室とし、家内が飼いたがっていた子犬を飼い、花や思い出の写真を飾り、アロマをたき、好きな音楽を静かに流し、銘菓を常備し、そして、家内の毎日の生活記録をヘルパーさんたちと共有化してきました。
 このような工夫と努力、そして主治医の適切な薬の投与などで、少しずつ家内が落ち着きを取り戻し、興奮して暴れることが無くなってきました。
最近は、良く寝て、良く食べ、良くおしゃべりするようになり、音楽に合わせて腰を振るなどおどけても見せるようにもなりました。


 家内は不幸な病気になってしまいましたが、今は痛みや不安が少なく、穏やかで豊かな時が送れているのだと思います。私も不自由な毎日ではありますが、介護生活によって、人を思いやる気持ちを豊かに持ち続けることができているのだと思っています。

妻のオムツ交換

 在宅介護にとって“おしもの世話”とりわけ便失禁の処理が大きなハードルとなります。このハードルに直面すると「もう限界」と言って在宅介護を諦めてしまうことがよくあるようです。確かに非常にきつくて辛い作業ですがここが在宅介護の正念場で、このハードルさえ超えてしまえばあとは肉体的にきついことはほとんどなくなると思います。
 私は寝たきりになってしまった妻を在宅介護してきて、訪問介護のヘルパーさんがオムツ交換をする際には、妻の体を支えるなどちょっとしたお手伝いをしてきました。当然、訪問介護のタイミングとずれた便失禁もあります。妻が気持ち悪い思いをしているかと思い、見よう見まねで一人でオムツ交換をしてみました。はじめは最低限の処置だけで精一杯でしたが、しだいに要領が分かり、しっかりと準備をすればかなりきれいにできるようになりました。
 インターネットなどで、動画による作業要領もたくさん紹介されています。是非そちらも見ていただけたらと思いますが、介護素人の私一人でもできたオムツ交換を具体的にご紹介することで、少しでも介護生活のお役に立てればと思います。

 手順1
 まず第一に、本人に声がけして作業を始めることが大切です。
もうコミュニケーションが取り辛くなっていても、「気持ち悪いよね。これからきれいなオムツに交換するからね。」と、理解と協力を求めることです。この声がけをすることで、自分自身の作業に対する覚悟と妻に対する成果を確認することができます。
また、必ずカーテンやドアを閉め本人の尊厳を大切にするとともに、ぬるま湯による体の一部洗浄に適した室温を確保します。

手順2
 次に、用意するものです。
①古い新聞紙
②大型ビニールごみ袋
③陰洗用のタオル
④お湯を入れた陰洗用バケツ
⑤お湯を入れた穴あきペットボトル
⑥泡石鹸
⑦替えオムツ
⑧替え尿取りパット
⑨陰洗時用の大量吸収尿取りパット
⑩300×700程度のフラットシート
⑪カットされたトイレットペーパー
⑫使い捨てのビニール手袋
⑬買い物ビニール袋
⑭蓋つきごみ箱
⑮トイレに流せるお尻ふき用ウエットティッシュ
⑯着替え

⑮⑯は外出時など必要に応じて用意することとなります。

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 手順3 
 ベッド上で一人で汚れたオムツを交換するには、片腕で本人の体を支えながらもう片方の手で作業をしなくてはなりません。そのため、用意したものを作業しやすいように事前に配置します。
まず、汚れたオムツなどを置くために①古い新聞紙を広げます。本人の体を支えた状態で汚れたオムツなどを処分するので、ベッドの外に放り投げることになります。私はポータブルトイレをベッドのそばに引き寄せ、その座席に新聞紙を広げることで、ベッドとの高低差を少なくして汚物の飛散防止に努めました。
次に、②大型ビニールごみ袋を床に敷いた上に、③陰洗用のタオル、④お湯を入れた陰洗用バケツ、⑤お湯を入れた穴あきペットボトル、⑥泡石鹸を用意します。
②大型ビニールごみ袋は、タオルを濯ぐときに汚水が回りに飛び散っても気軽に捨てることができます。③陰洗用のタオルは、広告名などが入った頂き物の薄手の白いタオルに限定しました。⑤お湯を入れた穴あきペットボトルは、500mlのペットボトルの蓋に千枚通しで小さな穴を数か所空けたものと、ドレッシングなどを入れる少し先の太いノズルが付いたものの二種類を用意しました。汚れ落としの石鹸は泡状の物が使いやすいと思います。

 手順4 
 ベッドで作業をする際の準備です。
⑦替えオムツ、⑧替え尿取りパット、⑨陰洗時用の大量吸収尿取りパット、⑩300×700程度のフラットシート、⑪カットされたトイレットペーパーを、作業の邪魔にならずに手が届くところに配置します。
 ⑪カットされたトイレットペーパーは適度な長さにカットしたものを状況に応じて数枚用意します。片手で作業をすることになるのでロールのままですと、片手でカットすることができないだけでなく、作業中にロールがベッドから転がり落ちてしまうことがあります。
次に、⑫使い捨てのビニール手袋を二重に重ねて手にはめます。作業で汚れてしまった時に外側の一枚を外せばすぐにきれいな手袋の状態に戻せる、訪問介護のプロから教わった技です。

 手順5 
 いよいよ作業開始です。
その際、「お待たせしました。これからオムツをきれいにするからね、少し我慢してね。」と、再度声がけします。先ほどの声がけはもう忘れてしまっているので、いきなりズボンを下げられオムツを外されては、人間として当然抵抗します。
 オムツを広げ体から少しずらすことで汚物と体を離した状態にします。⑪カットされたトイレットペーパーを使って、大まかに体についている汚物をふき取り、①古い新聞紙の上に捨てます。
次に汚れたオムツ・パットを抜き取るのですが、声がけしてから片手で臀部を少し持ち上げ、できることであれば汚物とパットを抜き去り、オムツの汚れていない部分を使って、体の汚れをふき取りながら引き抜きます。その状態を維持しながら、引き抜いた汚物パット、汚れたオムツを①古い新聞紙の上に捨て、⑨陰洗時用の大量吸収尿取りパットを臀部の下に敷き込みます。もちろんオムツが汚れていなければオムツを陰洗用にそのまま使います。臀部を⑨陰洗時用の大量吸収尿取りパットの上に戻し、再度⑪カットされたトイレットペーパーを使って、汚物をふき取ったうえで、⑥泡石鹸、⑤お湯を入れた穴あきペットボトルで汚れを良く洗い流し、③陰洗用のタオルで良く拭き取ります。

 手順6 
 体を傾けて臀部の清掃とオムツの着用です。
⑩300×700程度のフラットシートを体を傾ける方の腰の下に敷き込み、作業中の失禁に備えます。⑧替え尿取りパットを装着した⑦替えオムツを広げて準備します。ベッド側面の落下防止手すりを確認して、声がけしてからその方向に体を90℃以上傾けます。できれば、本人に手すりを掴んでもらってその姿勢を維持してもらいます。
臀部の汚れを③陰洗用のタオルで良く拭き取り、⑨陰洗時用の大量吸収尿取りパット、⑫使い捨てのビニール手袋を①古い新聞紙の上に捨て、⑧替え尿取りパットを装着した⑦替えオムツを位置を確認しながらベッドの上に敷きます。
声がけして体をもとの状態に戻し、オムツを装着します。

 手順7
 片付けです。
①古い新聞紙の上には、汚れたオムツ・パット、⑪カットされたトイレットペーパー、⑨陰洗時用の大量吸収尿取りパット、⑫使い捨てのビニール手袋などが集まっていますので、それらを①古い新聞紙でくるみます。それを⑬買い物ビニール袋に詰め込んで、バレーボール大の大きさに圧縮してから口を結び、⑭蓋つきごみ箱に捨てます。

 以上が私が行ってきたオムツ交換の手順です。
自分自身オムツを着けて便失禁の体験はありませんが、もしそのような状態になった時は一刻も早く不快な状態から助けてもらいたいと思います。また、立位の状態で便失禁をしてしまった時に、オムツ交換の為にベッドに横になることには必死に抵抗すると思います。
 豊かな在宅介護を送るうえで、本人に寄り添ったオムツ交換の準備と工夫はとても大きな要素だと思います。

男性による在宅介護

 新型コロナウイルスの感染拡大による非常事態宣言に寄って、介護家族にとってはますます厳しい状況になりつつあります。

 そんな中、若年性アルツハイマー認知症の妻を8年間在宅を中心に介護してきた経験などを紹介することで、少しでも介護家族のお役に立てたらと思い発信することにしました。