男性による在宅介護

在宅介護の工夫など

家族旅行会の魅力

昨年の6月に初めて参加した家族会の旅行記録です。

 

 

20190624                      家族旅行会の魅力

 

 初めて参加した家族旅行会について、男性参加者としてのご報告と、感想をお伝えしたいと思います。

 6月1日土曜日の12時に東京駅丸の内の行幸通りに集合でした。何かと手間のかかる介護家族にとってゆっくりとした集合時間、国家の威信をかけてバリアフリーが徹底されている分かり易い集合場所は、とても適切だと思いました。

 参加者は21名で、ご本人の男性2名と介護家族2名、他の介護家族3・4名で、残り10名以上がOG、OB、サポーターでした。また、現地の伊豆大仁温泉から一組のご夫婦が参加されました。

 27人乗りのゆったりとしたサロンバスは、大きく開かれた車窓からの景色も楽しめ、外出の機会が取れなくなってきてしまうご本人や家族が、ドライブの楽しさを満喫することができます。

バスが走り出すとすぐに家族が持ち寄った多くのお菓子が車中を回り出し、副代表による事務連絡、参加者全員の自己紹介が済むとすぐにカラオケが始まりました。車中を盛り上げようとアップテンポな陽気な歌から始まり、じっくりと聴かせる歌など、ご本人や家族が日頃のストレスを発散する機会になりました。

一方、スピーカーの音量が大きく耳をふさがれてしまうご本人もいました。まだ二人で外出できた頃の妻が映画館やコンサート会場の大音響に耐え切れず、急に飛び出してしまったこと思い出しました。

ご本人も参加されている密閉された車内では、音量、香り、車酔いなどの状況をよく見極めながらの利用が望ましいと思われました。

 サービスエリアで30分程度のゆっくりとした2回のトイレ休憩を挟み、夕方4時ごろ大仁温泉ホテルに到着しました。

 3組の家族参加の方は洋室、女性は3・4人ずつに和室、世話人などの男性5人は12畳程度の和室一部屋の部屋割りとなりました。

 6時の夕食までに温泉に入ろうと、男性ご本人と世話人男性ら6人で、奥様が用意してくれた着替えの入った手提げ袋を持ち、ご本人と手をつないで大浴場に向かいました。

家族会の旅行なので、プロの介護士が同行しているわけではありません。私も妻の介護しかしたことがないのですが、ご本人と手をつないで大浴場まで来た成り行きで、入浴のお世話をすることになりました。

家庭での入浴と勝手が違うだけでなく、男性に囲まれた雰囲気に戸惑い立ち尽くしているご本人に、自分が先に裸になって声を掛けながら何とか脱衣することができました。

のんびりとした温泉の音が響き渡っている大浴場に、「段があるよ」「滑るから気を付けて」と声を掛けながら6人が一緒になってドヤドヤとなだれ込みました。

ご本人は緊張しているためか浴場の洗い椅子に座ることができず、介護用洗浄椅子に気づくまで立ったままのご本人の体を二人掛りで洗いました。

一般の利用客は状況をそれとなく察知し、遠巻きにして配慮してくれました。

大浴槽に入っても、ご本人は「危ないよ!」と言って浴槽の中で座ることができませんでしたので、淵に腰掛けてお湯を何杯も体に掛けて温泉を楽しみました。

体を良く拭いてからお揃いの浴衣に着替え、男6人が一団となって部屋に戻る時、来る時とは違った体の芯から温まった仲間意識、連帯感を感じました。

 6時から2時間、飲み物も含めたバイキング形式の夕食です。

会員は二列のテーブル席に分かれましたが、各自が好きな飲み物、食べ物をそれぞれのペースで運びながら、おしゃべりと一緒に楽しみました。すべての種類の日本酒をグラスに入れて、テーブルに一列に並べて飲み比べを楽しんでいるお酒好きもいました。

 「あっ」という間の楽しい夕食の時間が終わると、カラオケルームと男性部屋に分かれました。

男性部屋では持ち込んだお酒を飲みながらの談話に一時ドアを閉めることもありましたが、カラオケが終了するとほとんどの旅行参加者が狭い男性部屋に合流して、いやがうえにも介護の苦労話に花が咲きました。

 ここで大仁温泉から参加されたご夫妻の男性ご本人が大浴場に行きたいとのことで、副代表と二人で再度お供することになりました。

前回と同様に手をつないで浴場へ誘導しようとしましたが、ご本人から「男どうし気持ち悪い。」と断られてしまいました。確かにまだ足取りもしっかりしていて、脱衣もほとんどご自分で行える方でしたので、プライドを損なってしまったのかもしれません。ご本人のできることの芽を摘んでしまわない配慮の大切さを感じました。

ご本人が「魁傑ハリマオ―」の歌がカラオケで気に入っていたとのことで、一般入浴客がいないことを良いことに三人で「魁傑ハリマオ―」を大声で合唱しながら浴室に向かいました。アシストの二人は男性部屋でもかなりお酒が進んでいたので、ご本人の体を洗うのを手伝ってからは浴槽には入らず淵に座って、若い頃に流行った思い出の曲を歌い続けました。ご本人も口ずさみながら大浴槽の中で一人気持ち良さそうに泳いでいました。

映画のワンシーンにでも出てきそうな、男性高齢者三人が作り出した奇妙な情景でした。

 翌朝は7時から富士山を望みながら同じバイキング形式による朝食で、9時の出発前に集合写真を撮り、「めんたいパーク伊豆」に向かいました。「めんたいパーク伊豆」では工場見学、お土産の買い物、足湯等でゆっくり時間を過ごし、沼津港に向かいました。

沼津港では魚市場の前に展開する海産物のお店を散策し、お昼には魚河岸割烹で「ぬまづ丼」を食べました。食事が終わってバス出発までの時間も港周辺をそれぞれのペースや嗜好に応じてゆっくりと観光を楽しむことができました。

昨夜は手つなぎを断られた男性ご本人が、女性アシストとしっかり手をつないで楽しそうに散策していました。

 現地参加のご夫妻とは連絡先などの交換を済ましてここでお別れし、帰路につきました。バスが走り出すと心地よい振動に最初の休憩場所まで静かな午睡の時間となりました。一回目の休憩後車内は再びカラオケ会場となり、二回目の休憩を取った後は一人一人が旅行の感想を語り、夕方4時に丸の内に無事到着し解散となりました。 

 事故や特段のトラブルもなく、宿泊部屋の狭さを除けば多くの方が満足できる旅行だったと思いました。

とりわけ、日常とは異なる景色の中で、同じ悩みを体験したどうしが、ゆっくり食事をしたり、風呂に入ったり、枕を並べて同じ時間を共有することができました。定例会などでもなかなか話すことができない悩みを打ち明け、経験から得られたアドバイスを受け、連絡先などを交換することもできました。

 残念に思ったことは、こんな素晴らしい旅行会なのにご本人や介護家族の参加が少ないこと、車椅子などを利用されている重度の症状の方が参加されないことでした。

高額の利用料を払って、すべて任せられるプロの介護士が同行してくれる旅行企画などを見かけることがあります。それであれば重度の症状の方でも家族が安心して参加することができますが、家族旅行会は、交通・宿泊の実費だけで仲間と一緒に行く旅行です。会の世話人と言っても、現在も家族を介護している方や介護経験者というだけで介護のプロではなく、旅行会の段取りをして参加費を収めて参加している者です。

ただ、参加者全員がご本人や家族の困っている様子を切実に分かち合うことができ、自ら苦労を買って出るために参加している仲間の集団です。

 こういった家族旅行会の魅力や事情を良く説明して、参加したくてもなかなか参加することができない多くの会員に呼び掛ける必要があると思いました。また、参加を希望されるご家族と、ご本人の様子、具体的な対応に関する役割分担などについて事前によく打ち合わせを行い、場合によっては支援体制の拡充も検討するなど、きめの細かい準備が求められると思いました。

 家族旅行会は、参加者全員がご本人や家族と一緒になって日頃のストレスを発散し、苦労を分かち合い、助け合うことで、人間にとって一番大切な心の充足を経験させてもらえる一泊旅行です。このことが家族旅行会の最大の魅力だと思います。